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歴史万華鏡コラム 2025年11月号

高知市広報「あかるいまち」より
鳥獣被害の今昔
高知県内、どこへいっても鳥獣に作物を食べられた、畑を荒らされた…という相談を受ける。県の調査によると被害額で最も大きいのはイノシシによる被害であり、令和六年度は全体の被害額の48パーセント、約半分を占めた。次いでニホンジカ、ニホンザル、近年ではハクビシンやノウサギによる被害の相談も増えている。
被害に遭っている地域では「昔はこんなに被害はなかった。獣の数が増えている」という声をよく耳にする。確かに個体数が増えている地域もあるが、全てがそうではない。人の生活圏に獣が出没する頻度が増えている、という認識のほうが正しいと思う。なぜなら、昔は薪を採るためだったり、林業作業だったりと、人が頻繁に山に入り管理をしていた。そのため、獣は人里に近づきにくかったのだろうと想像する。それでも近づいてくる獣に対しては、石を高く積んだ獅子垣で、農地に進入させないようにしていた痕跡がいまでも各地で見られる。
現代では、農地や民家の際まで林ややぶが広がっており、イノシシなどの獣たちは、自分の身を隠しながら農地までやって来ることができる。慣れてくるとその周辺のやぶに潜み、人が寝静まるころ餌を探して徘徊する。無防備な農地は格好の餌場だ。
本来、イノシシをはじめとする獣たちは臆病であり、あえて人里に近づいてくるということはない。人里には簡単に食べられる餌が豊富にあるということを学習してしまうと、頻繁に出没し農地を荒らすようになる。人里が安全で、効率的に餌が食べられることを教えてしまったのは人間たちなのだ。
昔のように山に入って手入れをするということまでは難しいかもしれないが、農地や民家の周りのやぶを刈り払い獣の潜む場所を少しでも減らし、農地の周囲には侵入防止柵を設置するなど、人の生活圏と獣の生息地の境界線をつくることで、鳥獣被害を防ぐことはできる。人は里で安心して暮らし、獣は山で生息していける環境がある、そのような共存の道をつくりたい。
NPO法人四国自然史科学研究センター 副センター長 葦田 恵美子
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※このページは、高知市広報「あかるいまち」に掲載されている「歴史万華鏡」のコーナーを再掲したものです。



