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歴史万華鏡コラム 2025年08月号

高知市広報「あかるいまち」より
言葉選びの名人・黒岩涙香

来年開催の「よさこい高知文化祭2026」関連イベントに「競技かるた」の全国大会が予定されている。そのルールを統一し、現代の形に確立したのは高知県安芸市出身のジャーナリスト・黒岩涙香であることもこの機会にぜひ知ってほしい。
涙香(本名周六)は文久2(1862)年生まれ、大阪・東京で学んだ後、新聞記者となり、独立して『萬朝報(万朝報)』を発刊、明治の新聞界に大きな業績を残した。
萬朝報は簡単・明瞭・痛快をモットーとして社会悪を徹底的に追求。さらに涙香は海外の文学作品を『白髪鬼』『巌窟王』『噫無情』と題し次々と翻訳・翻案して紙上に連載。日本人向けに大胆にアレンジした文体は読みやすく、圧倒的な人気を誇った。また、日本で初めて創作探偵小説を書いたのも涙香と言われている。
野村胡堂・江戸川乱歩・横溝正史といった作家も涙香に魅了され、それぞれ随筆等で魅力や凄さを語った。特に乱歩は、少年時代に涙香翻案の『幽霊塔』(原題は『灰色の女』A・M・ウィリアムスン著)を読んで衝撃を受け、後にリライトして乱歩版『幽霊塔』を出すほど愛好した。余談だが、ことし、その涙香版『幽霊塔』が演劇となり九月に高知で上演される。
涙香は趣味も徹底的に追求、分析し、闘犬、相撲、漢詩、五目並べ(連珠)、歌かるた、俚謡などは新聞紙上で魅力を紹介して愛好者を増やした。特に俚謡は古来より伝わる平民詩として再興を呼びかけ、自らもうたった。現代でも共感できる涙香の俚謡が残る。
木にも石にも情をこめて
つやを出しゃこそ歌になる
歌は皆まで云わぬが花よ
絵でもぼかさにゃ絵にならぬ
言葉やさしく姿ははでに
かくな心を丸くよめ
難しいことを分かりやすく他者に伝え、興味を持たせるにはどうすればいいか、涙香から学ぶことは多い。涙香の生家は、改修を施しながら大事に受け継がれ、愛用品や著書は高知県立文学館や安芸市立歴史民俗資料館などで展示されている。
高知県立文学館 主任学芸員 福冨 陽子
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※このページは、高知市広報「あかるいまち」に掲載されている「歴史万華鏡」のコーナーを再掲したものです。