こうち二段階移住

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その美しさから“仁淀ブルー”と称される高知県仁淀川。清流に恵まれたこの地域は、日本三大和紙の一つとされ、1000年以上の伝統を誇る土佐和紙の産地です。「尾崎製紙所」四代目として、土佐和紙の技術を受け継ぐ片岡あかりさんにお話を伺いました。

吾川郡仁淀川町
片岡あかり / 尾崎製紙所

千年長持ちする和紙を、
未来へ受け継いでいくために。

Japanese paper 和紙の職人

土佐和紙の仕事をはじめた経緯を教えてください。

片岡:仁淀川町は、風土が紙の原料になる楮(こうぞ)の栽培に適していたため、古くから製紙業が盛んだったんです。昭和24年頃までは、このあたりの家のほとんどが紙漉きを家業にしていたそうです。私の実家もその一つで。曾祖父がはじめた土佐和紙の製紙業を代々受け継いでいて、私が四代目になります。

片岡さんは、家業を継ぎたいと思っていたのでしょうか?

片岡:私は三人姉妹の次女で、子どもの頃から祖父や両親の紙づくりの手伝いをしていました。自分ではあんまり覚えていないんですけど、小学二、三年生くらいのときに「私が継ぐ!」と家族の前で宣言したらしくて。それで、家族は私が継いでくれるものと思っていたようです。でも、高校を卒業する頃にはそんな気はすっかりなくなってしまって、紙づくりとは無関係な分野の専門学校に進学しました。祖父は相当がっかりしていましたが。

Japanese paper 和紙の職人
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それからどうやって和紙職人の道へ進んだのでしょう?

片岡:紙づくりとは違う道へ進もうとしていたんですが、母が体調を崩したこともあって、家業を手伝うためにいったん実家に戻りました。そのうち、やっぱり私が継ぐべきなのかな、という気持ちも出てきて。といっても、本気で紙づくりをやりたいというほどではなく、とりあえず紙づくりをやってみてダメだったら別の仕事をすればいいや、くらいにしか考えていませんでした。

土佐和紙と真剣に向き合うことになったきっかけは?

片岡:22歳のとき、紙の卸売業をしている知人に誘われてカナダを訪れたんです。日本の和紙は、まず楮の質が良いこと、そして繊維を傷めないよう木炭や石灰で原料を「煮熟(しゃじゅく)」していることから非常に長持ちするので、海外では著名な画家やアーティストの作品づくりなどに重宝されているのだと。実際にイヌイットのアーティストさんにお会いしたら、「あなたの紙は健やかな紙です。パルプの紙は長持ちしないけれど、この土佐和紙は丈夫で健康的で素晴らしい」と、ものすごく褒めてくれて。このときに初めて自分の仕事が誇らしく思え、土佐和紙の紙漉き職人としてやっていく意志が芽生えたような気がします。

Japanese paper 和紙の職人
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和紙といえば「書道や版画に使われる紙」のイメージでした。

片岡:ですよね。もちろんその用途もあるんですが、海外では和紙がもつ自然な風合いや、千年長持ちするともいわれる丈夫さが人気で、ドローイングアートやスプレーアート、タペストリーの台紙など、幅広い創作シーンで使われているんです。
また、耐久性に優れる土佐和紙は、世界各国の美術館で文化財の修復にも活用されています。国立国会図書館などの国内施設のほか、パリのルーヴル美術館やロンドンの大英博物館からも視察に来られましたね。

Japanese paper 和紙の職人
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和紙職人としてのこだわりを教えてください。

片岡:そもそも私はそんなに和紙職人になりたかったわけでもなく、こんな田舎から早く出たいと思っていました。でも、外の世界から日本を見つめ直すことで、仁淀川町という地域の素晴らしさや、自分の仕事の魅力を再発見することができた。伝統の仕事とはいえ、その世界ばかりに閉じこもるのでなく、外の世界との接点や交流を持ったり、新しい考え方を身につけたりすることも大切なのではと思います。
最初は中途半端な気持ちではじめた土佐和紙づくりの仕事ですが、今ではこの仕事に誇りを持っていますし、この田舎の風景も大好きです。

最後に。
高知市を含む「れんけいこうち広域都市圏」では、二段階移住を推進するプロモーションとして、2019年に「#田舎暮らしは甘くない」を展開しました。片岡さんにとって、田舎暮らしはどんなものでしょうか?

片岡:仁淀川町は都市部から移住してきた方も多く、ときどきお話しする機会がありますが、地元の人との距離感やコミュニケーションの違いを気にされる方が多いですね。私がアドバイスできるとしたら…田舎ではご近所さんには挨拶する方がいいとか、自治会の清掃などにはなるべく参加する方がいいとかですかね。そうすることで、地元の人にも「ここに馴染もうとしているんだな」と感じてもらえますから。少し面倒かもしれないけれど、情に厚いのが田舎暮らしなんだと思います。

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片岡あかり

片岡あかり

高知県仁淀川町出身。1930年創業「尾崎製紙所」の四代目として、土佐和紙の紙漉き職人に。一枚一枚、手作業でつくられる土佐清帳紙は、国内の書家や画家、工芸作家だけでなく欧米のアーティストにも人気。さらには美術品修復資材として、国内外の美術館、博物館でも使われている。土佐和紙と工芸品を扱うアンテナショップ「Kaji-House」を運営。
Instagram @kajihouse611

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