土佐史研究家 広谷喜十郎

268 画家・坂本直行-高知市広報「あかるいまち」2006年10月号より-

 数年前、北海道開拓に功績を上げた土佐人の足跡を訪ねたことがある。

 札幌市内にある北海道の総鎮守・北海道神宮も訪れた。境内社の一つに開拓神社があり、祭神として三十七人が祭られている。

 日本史でおなじみの、伊能忠敬、高田屋嘉兵衛、間宮林蔵らに加え、宿毛市出身の北海道庁初代長官の岩村通俊が祭られている。北海道神宮に隣接する円山公園内には、岩村の銅像がある。

 広大な神社の境内に小さな茶店がある。立ち寄ると、冷茶と焼き餅のサービスを受けた。これを提供している「六花亭」は北海道を代表する菓子店の一つである。ここの包装紙の図柄は、坂本直行の描いたものである。彼は、坂本龍馬の流れをくむ人であり、何か不思議な縁を感じた。

 坂本直行は、明治三十九年(一九〇六年)龍馬の長姉の二男・直寛の孫として釧路に生まれる。高知新聞社刊『高知県人名事典』では次のように紹介されている。「昭和二年北海道帝国大学を卒業。十一年に十勝の広尾町に入植。厳しい自然と戦いながら農業を営み、山岳画家として自然を描き続けた。六花亭の代名詞としてすっかり定着している繊細なタッチの野草の包装紙をデザイン。『山・原野・牧場』『開墾の記』などの著書がある。」

 厳寒の荒野での開拓は厳しいものであり、苦労の連続であったと思われるが、十勝平野での五年間の開拓記録である『開墾の記』(長崎書店)では「正月や火の車さへ一休み」など、ユーモアを忘れず、頑張っている姿を淡々と記述している。
 この本には、日常生活の中でのスケッチや日高の山々の風景画が数多く挿入されている。中でも、身近な植物画には「ニリン草、フクべラと称して早春の野菜である。味もよろしい」などと、その植物に寄せる文も添えられている。北海道の自然を愛した直行の思いが、ほのぼのと伝わってくる。

 本年十一月から、県立坂本龍馬記念館では『反骨の農民画家・坂本直行展』が開催される。待ち遠しく思われる。

広尾町に入植後間もない30歳ころの坂本直行
●広尾町に入植後間もない30歳ころの坂本直行

トップページへあかるいまちトップへ歴史散歩トップへ

All Rights Reserved. Copyright Kochi-city.