こうちミュージアムネットワーク

3. 純信・お馬像  -高知市広報「あかるいまち」2012年4月号より-

 はりまや橋のたもとに静かにたたずむ「純信・お馬像」。白一色のシルエットに、お馬のかんざしの赤色が映える。御影石製の台座には、縁結びを願う結び目のデザインと隆一のサイン。『フクちゃん』で知られる漫画家横山隆一の作だ。やや抽象的な姿には、「訪れる人に物語を自由に想像してもらいたい」という思いが込められている。

 このモニュメントは、かつて観光客から「がっかり名所」と呼ばれていたはりまや橋の汚名返上のために、1996年から行われた整備事業の一環として企画されたものだ。よさこい節の一節「土佐の高知のはりまや橋で坊さんかんざし買うを見た」でおなじみの、僧侶純信と商家の娘お馬との悲恋話を具現化すべく、同年に高知市名誉市民第一号となった隆一に依頼された。

 隆一は漫画家になる前、高知出身の彫刻家本山白雲の内弟子として学んでいた時期があり、その経験が生きたといえる。ちなみに、白雲代表作の一つである桂浜の坂本龍馬像は、その履物部分を隆一が担当していたという風説があるが、これは誤りで、戦前日光に建っていた板垣退助像のわらじ部分を作ったというエピソードが形を変えて伝わったようだ。

 純信・お馬像は、隆一が作成した小さな石こう製の原型を基に、高知市在住の彫刻家狩野信児(かりのしんじ)によって制作された。お馬の赤いかんざし部分には本物のサンゴが埋め込まれ、1998年3月に披露された際には、はりまや橋の南西の水路沿いに設置されていた。

 しかし、お披露目からわずか2カ月足らずで、サンゴのかんざしが盗難に遭ってしまった。「サンゴの粉を使った方が安上がりでいいと言ったのに」と隆一は惜しみ、「犯人は高知の人でなきゃいいなあ」と愛郷心をにじませた。その後、かんざしは隆一の提案に沿ってサンゴの原木の粉と合成樹脂を混ぜて再現され、現在の場所である北側通路寄りに移された。盗難被害は残念なことだが、この移動で、より人目に付きやすく親しまれるようになったといえるかもしれない。

 純信・お馬像は、今もはりまや橋を訪れる観光客を見守っている。二人の恋物語に思いをはせるのに一役買っていることだろう。

[こうちミュージアムネットワーク 横山隆一記念まんが館 奥田 奈々美]

仲良く寄り添う純信・お馬像(はりまや町一丁目)

●仲良く寄り添う純信・お馬像
(はりまや町一丁目)

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