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高知市春野郷土資料館外観

はるの昔ばなし

弘岡の庄屋さん

 

 昔むかし、弘岡に肝っ玉の太いえらい庄屋さんがおりました。

 用事があって朝倉へ行きましたが、思いのほか手間どって帰るのが夜になりました。その家の人びとは

 「夜道はあぶないし、泊って行きなされ。」

 「狸が出るきに朝にしいや。」

などと口ぐちに言いました。

 昔の荒倉坂は、昼間でも暗い程木の茂ったところがあり、その上、夜は狸が出るとか肝取りが出るという話があって、夜は人通りもないさびしい坂でありました。

 庄屋さんは「なんの、なんの、狸が出たら引っとくまえて見せ物にすらあよ。」と言い、貸してもらった提灯〔ちょうちん〕を片手に帰途につきました。

 坂道を登るにつれて、茂みの中でガサガサと音がしたり、ギャー、ギャー、ともまがないたりして、気味が悪いったらありません。やっと峠まで来ましたが、一軒だけあった茶屋もまっ暗でひっそりしています。

 たばこに火をつけようとして立ちどまった時、スタスタというぞうりの足音がして、一人の娘さんが追い越して行きました。俺でさえさびしいこの坂道を、女一人の山越しはおかしいぞと思いました。

 ……よしとばかり、庄屋さんは後をつけました。三丁程下ったところで、その娘は谷あいの小藪〔やぶ〕のかげに入りました。見るとそこにはりっぱな門構えの家がありました。間もなく座敷にあかりがつき皿鉢も出て、お父さんお母さんそれに先の娘と三人でおきゃくが始まりました。庄屋さんは帰ることも忘れて見とれていましたが、やがてだんだん夜が明けて来ました……。

 朝早く草刈りの若者が通りかかり、庄屋さんを見付けました。庄屋さんは木の又に首を突っこんで、手をふり足をばたばたさせていました。

 「こりゃ、庄屋さん、何をしよるぞね。」

と言いましたが庄屋さんは気がつきません。もう一度、「庄屋さん!」と言って背中をたたくと、はじめて庄屋さんはわれに返りました。そこには家もなんにもなく、竹藪があるだけでした。

弘岡の庄屋さんイラスト

 

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