はるの昔ばなし

鼓鳴山

 

鼓鳴山イラスト

 西畑、岐〔ふなと〕の谷の東側の山を鼓鳴山〔こめいざん〕といいます。岐の里では、真夜中にこの山から鼓の音が聞こえてくるという話が伝わっています。片山正尚さんは

「若い時分でしたが、私も鼓の音を聞きましたよ。」

と言っています。

 この鼓鳴山の頂き近くに小さいお宮さんがあります。古くから不入〔いらず〕権現〔ごんげん〕と呼んでいますが、文書の上では森神社となっています。祭神は谷の西側にある岐神社の祭神の姉神様だそうです。不入権現というのは、前は女人禁制となっていたからだろうと思いますが、昔から女性がこの山にはいると大雨になる、といわれています。

 明治十四、五年のころのこと、長いことひでりが続いたので、部落の若者十人ばかりがこの山にはいり、社前で雨乞〔あまご〕いをすることになりました。

 日が暮れて暗闇が迫ってくると、一番年長の柳井馬次さんがお祈りを始めました。一同は暫くは神妙に頭を下げていましたが、そこは若者のこと、一人が面白半分におならをこきました。

 一同が吹き出したその瞬間、背筋を何かが走る気配がして、あっと思う間もなくみんなが二メートル程下の平地のところへ放り出されました。後は何がなんだかさっぱり分かりません。気がついた時には、みんなは下の平地の楊梅〔やまもも〕の木の根元に倒れており、馬次さんだけが元のところにいて切れぎれの声でお祈りをしておったということです。

 こんなことがあったので、人びとは一そうこの山に近付かなかったようです。その後、ご神体と一緒にお祀りしてあった巻物を盗まれましたが、それから後は格別変ったことも起こらずに今日に至っているようです。盗んだ人は沖の島のたんかいという人だったようですが、くわしいことはわかっていません。

 旧六月二十五日の晩がご神楽ですが、昔は鼓鳴山の頂上にたくさんの提灯〔ちょうちん〕が灯され、遠く弘岡あたりからも点てんと並んだ灯りが眺められたといいます。今は麓の道路ぶちに青年たち自作の絵馬を並べるように変わっています。

 

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